【完】片手間にキスをしないで



「~~っ?!」


奈央クン、ぎゅって。ぎゅって、これ……!


気付けば、頭から肩に下されたその手で、奈央の胸元へと引き寄せられていた。鮎世をかわすように、それも、いささか強引に。


「なな、な、奈央クンッ……誰かに見られたら、」

「あ?うるせぇ」

「ひぃっ」


見上げた瞳はすでに柔さを失くし、今度は鈍い色を宿している。


情けない声こそ出したものの、口の悪いところも、不機嫌そうに歪められる表情も、夏杏耶は結構好きだった。


それに、今回はギュッ、とより力が籠められるのだから、余計に高揚してしまう。


夏杏耶は、いよいよ自分が〝マゾ〟だということを認めざるを得なくなってきた。


「ハハッ、酷い言い様。こんなカワイイ彼女に対して」

「お前が手ぇ出そうとするからだろ」

「あー、何?八つ当たり?嫉妬?うわぁ、大人気ないなぁ先輩」

「てめぇ……いい加減にしろよ」


ベスト越しに聴こえる心臓の音が心地いい。


……しかしそんな幸せに浸る時間も、後ろで響く会話のせいで台無しだった。