【完】片手間にキスをしないで


フリーズしたまま、どういうことだろう、と出口の見えない混乱に陥る。見兼ねて奈央は、言葉を変えてもう一度放った。


「コンビニに置きっぱなしだった荷物、もう家に運んであるから」

「~~っ!!」


視線を逸らしながら言う奈央に、夏杏耶はギュッと飛びつく。


信じられない。本当に?本当に……?奈央クンが、認めてくれたの?


「おま……ここで引っ付くなっ」

「なんで、だって嬉しいんだもん……!うれし……本当に、嬉しいの」

「だからって……それにほら、泣くな。うっとうしい」

「うぅぅ、今日はどんなに冷たくされても平気だもんっ」

「言っとくけど、仕方なくだからな……。大体、引っ越し屋まで手配しといて、忘れんなよ」

「……へ?」

「あのあと家に段ボールの山運ばれてきて、かなり面倒だった」


かなり、を強調しながら、腰に回った腕を引き剥がそうとする奈央。


夏杏耶はそれに抗いながら、そういえば……今日届けるように言っていたっけ、と今更思い出した。