【完】片手間にキスをしないで


都合のいい解釈が脳裏を過る。ただ、まだ油断するには早くて。


「ってぇ……お前、タダじゃ置かねぇぞ」


ようやく奈央が捻り上げた手を放した後、男は肩をさすりながらニヤついた。


なんだろう……ネオンに照らされたその笑みが、嫌な予感をそばだてる。彼の左腕に収まりながら、夏杏耶は眉をひそめた。


だからか……『目、瞑っとけ』って。


でも、奈央クン。私は昔と違うんだよ。今は守ってほしいなんて、全然思ってない。


「は……おい、夏杏耶、」


夏杏耶は身を縮めて、彼の腕を脱出する。


「ほーら、後ろがお粗末だぞー」


ビュンッ───


直後、正面の男が喉を鳴らしたのを合図に響いた、夜風を鋭く切る音。背後から、奈央の後頭部を狙う蹴り。


……間に合って、本当に良かった。


「は……ウサギちゃん?」

「後ろからって……卑怯すぎます」


夏杏耶は蹴りをガードした腕の奥で、口を尖らせる。同時に、奈央を傷つけようとした罰として、


「正当防衛で、お願いします!」

「う、ぐッ……!!」


鳩尾(みぞおち)に、中段回し蹴りをお見舞いしたんだ。