「んなこと、とっくに知ってるわ」
「え……まじ?」
上ずった声に、奈央は息を漏らす。
「見すぎだ。夏杏耶の事」
「あぁ……」
「あと、あんま付きまとうなよ」
「そうは言っても、あの子……好きになったら目ぇ離せないじゃん。奈央なら分かるでしょ」
「……いつのこと言ってんだよ」
「さぁ……でも俺、あの頃。なんで気付かなかったんだろう」
「何が」
「夏杏耶ちゃんが、素直で真っすぐで、可愛いってこと」
「ああ。気付くのが遅ぇ」
「お、ちょっと棘とれたね」
棘ってなんだよ───とあしらいながら、靴を履き替える。
「奈央」
「……まだなんかあんのか」
下駄箱は離れているはずなのに、懲りずに再びやってくる鮎世。同じクラスの、とくに女子たちは、怪訝そうにこちらを一瞥する。
他学年にも鮎世の名が知れているというのは、本当らしい。
奈央は寄せられる視線に顔を歪めながら、その真剣な瞳を捉えた。
「相手が奈央でも、俺は本気だから」



