「眠そうだね。寝不足?」

「別に」

「バイト始めたらしいね、最近」

「……なんで知ってんだよ」

「夏杏耶ちゃんから聞いた」


軽率に刻まれる名前に、奈央は横を睨む。それでも鮎世は飄々として笑みを貼りつけていた。


……いけ好かない。


「訊きたいことがあるなら、今のうちに訊きなよ。教室わかれるんだし」

「別にねぇよ」


図星をつくところも、いけ好かない。人の機微に敏感なことは美点でもあり、同時に煩わしくもある。


鮎世は昔からそうだった。


「そろそろ素直にならないと、自滅するよ。そのうち」

「あぁ?」

「優しくて理性的なのは奈央のいいとこだけど……男としてはどうかな」

「ハッキリ言えよ、お前こそ」

「そうだね……じゃあ言うよ、はっきり」


鮎世はフードの端を引っ張り、視界を覆う。


「俺は夏杏耶ちゃんが好きだよ」


放たれた瞬間、自分より多少高い瞳の位置が、今更羨ましく思えた。同時に、憎らしかった。