【完】片手間にキスをしないで



「食らったのが肘打ち、っつーことは……後ろから襲い掛かったのか。女相手に」


脈が弾けるように加速する。それでも頭の中は冷静で。


そうだ、この感覚には身に覚えがある。ホワイトデーに夏杏耶を助けた、あの時と同じだ。


どうやら本気で怒りを覚えると、脳から血が引くらしい。


「お、れが、女にやられるわけねぇだろ。あいつだよ……女の隣に居た、鮎世って男」

「鮎世……手錠のせいか」

「ああ……そう言われてみれば、繋がれてたな。何?あの2人デキてんの?」


苦し紛れに紡がれる言葉。


喉を押さえつけているのに、ペラペラとよく喋る。動揺のわりに手を出してこないのは、ミャオからの令があるからだろう。


「デキてねぇよ」


眉を寄せながら、腹の底から上る声。自分のものとは思えないほど低い音に、奈央は一瞬戸惑った。


「……つーか、あいつは何考えてんだよ」