【完】片手間にキスをしないで



うえぇっ───わざとらしく付け加えられた効果音。夏杏耶は思わず睨みあげる。


ちょうどそのとき。睨み返される寸前だった。


「夏杏耶ちゃん……外れた」

「え、」


右手首が途端、軽くなる。伏せた鮎世が、こっそり鍵を刺したからだ。


2人を繋いでいた、無機質で厄介で、仲間意識なんかを芽生えさせてしまったこの手錠を。


「僕、結構強いんだけど。どうしてイラつかせるの?」


〝僕〟を含め、黒服の人たちはまだ気づいていないらしい。


夏杏耶は視線を逸らさないように。グリンッ、と覗き込む色のない眼光を、懸命に捉えた。


───今度は私が奈央クンを守るために、強くなろうって決めたじゃない。こんなところで怯むな、夏杏耶。


怖い、怖い……怯むな、怯むな。


奮い立たせる、なんて大げさだけど、自分にとっては精いっぱい。心の内で、何度も鼓舞した。