【完】片手間にキスをしないで



「ハハハッ、さすが夏杏耶ちゃん。奈央に関することだと鋭い」


鮎世───?


キュッ、と手錠の上から握られる手。


不本意だけど、今は彼のぬるい体温に抗えなかった。身動きが取れない中でも隣に鮎世(カレ)がいることに、安堵を覚えた。


私……どうしちゃったんだろう。


同族嫌悪。友だちでもないはずなのに……繋がれたままの手錠に、感謝してしまうなんて。


「お前は黙ってろよ。金魚のフン」

「それ……(きたな)いからやめろっつってんじゃん」

「威勢がいいな。イラつく」

「イラついてんのはこっちだよ」


初めて聞く声。ドスの効いた彼の声が響いた瞬間、矛先が変わる。


……一瞬だった。


───ドスッ。


「う、ぐ……っ」

「鮎世……!」


横で呻き、うずくまる鮎世。〝僕〟の膝蹴りが、その腹を突いたからだ。……目にも止まらない速さで。