【完】片手間にキスをしないで



「うん?これ?……俺の口も塞ごうとしたから、とりあえずやっといた」


一言も発してないのに、なんで視線で読み取れちゃうのよ……。


夏杏耶はもがくのを一旦やめて、再び正面を見据えた。


逆光で表情はうっすらとしか分からない。そんななか、センターの小柄なシルエットだけが、妙に濃く浮かんだ。


「お前、相変わらず饒舌だな。クソ鮎世」

「クソ、って余計なんだけど」

「クソはクソだろ。金魚のフンだし。奈央の」


えっ……奈央クン……?


際立ってオーラのあるセンターの人物は、足音を立てずに距離を詰める。


長めの襟足が特徴的な、アシメスタイルの柔い髪。暗色な髪色のせいか、左耳に突き抜けた複数のピアスがよく目立つ。


長い前髪のせいで片目は隠れているけれど、大きく不気味に見開かれた瞳は、どこか狂気を含んでいた。