【完】片手間にキスをしないで



──────……


「ねぇ……なんで鍵刺さないの」

「んー?まぁ、いいじゃないの。もう少しだけ」

「いやっ。嫌だ!」

「それ、案外傷つくからやめて」


森鴎外/著『舞姫』のカバー裏。無事に鍵を見つけ出したのに、まだ手錠は繋がれたまま。


夏杏耶は不服さながら、図書館の出口に向かうまでの短時間で、鍵を持っている鮎世を何度も睨みあげた。


「こんなことなら、私が鍵取り出せばよかった……」

「俺に任せた夏杏耶ちゃんが悪いね、じゃあ」

「それは絶対ちがう」

「アハハッ、膨れても可愛いだけだよー」


ほらまた軽口……。


呆れながら「じゃあ、いつになったら外してくれるの」と問いかけると、彼は出口の前で一瞬立ち止まり、笑みを止ませた。


「うん、大丈夫。〝たぶん〟あと少しだから」

「あと、少し……?」

「夏杏耶ちゃん、外したらすぐ奈央を探しに行くつもりでしょ?一人で」

「そりゃあ……」

「だからだよ」