【完】片手間にキスをしないで



『1回×7(=ま行)』、『2回×1(=あ行)』───丁寧に説明を加えながら、スマホの画面をタップする鮎世。


キンッ、と手錠がぶつかるのもお構いなしに、夏杏耶は手元を覗き込んだ。


「ま、い……まいひめ?」

「うん。『舞姫』だね」

「何、それ」

「森鴎外の『舞姫』」


ああ……『舞姫』……!


漢字に変換された文字が、米粒程度の知識を呼び起こす。


かつて教師が『恋を読み解く物語』と放った言葉が、授業中に珍しく、夏杏耶の興味を掻き立てていた。


「じゃあ、本当に図書館がキーに……」

「そういうことになるね。夏杏耶ちゃんお手柄」

「いや、私よりさぁ……」


鮎世の方が、謎に解き慣れすぎてて(すご)いよ───暗にそう秘めながら横を見上げた瞬間。


「カーヤちゃんっ!」

「……美々!」


図書館から出てくる親友に、夏杏耶は久しく安堵を覚えた。