【完】片手間にキスをしないで



後ろから「ごめんなさいっ」と放たれる謝罪は、籠ってよく聴こえない。


「いっ、いい、泉沢……っ」


代わりに耳を掠めたのは、頭上で耳を染め上げる静の声だった。


空手部の長とは思えないほどの動揺ぶり。


試合前でも決して冷静さを崩さない彼は、胸に飛び込んだ夏杏耶を見下ろし、目を泳がせた。


「ごめん静……あれ、動かない」

「あ……ああ。結構人入ってきて、パンパンだからな」

「確かに、すごい窮屈。うっ」


背をギュウッ、と押し付けられるとともに、静の体温に溶けるうめき声。


せっかく奈央クンにセットしてもらった髪も、これじゃあ台無し……って、それよりも。


ドクン、ドクン、ドクン───


不可抗力。彼の胸に当てられた耳が、妙に強い心音をキャッチする。


これ……静の音……?


「あの、静……」

「いいよ」

「え?」

「たまには俺に───寄り掛かっても」