【完】片手間にキスをしないで



中指でエレベーターのボタンを押しながら、軽口をたたく鮎世。


いつも通りの軽さ。いつも通り……いつも通り……?


フードの紐を強く引っ張って俯く様に、夏杏耶は思わず笑みを漏らした。


「ふふっ、唐揚げのときと同じ」

「え?」

「鮎世って、赤くなるとフードに埋まるんだね」


ぷふふっ、と零れる息が、緊張感を解いていくような気がした。


あれ……どうして私、緊張してたんだろう。


再び離された手と、繋がれたままの手錠に視線を落とす。微かに当たる手首(カレ)の温度が、少しだけ熱かった。



ガコンッ───


目の前のエレベーターが開かれる。


そういえば、鮎世はどこへ行くつもりなの?───そう問いかけるはずだった言葉を、夏杏耶はひゅっ、と呑み込んだ。


「な、奈央クン⁈ ……痛ッ!」


前のめりになった体を、文字通り〝枷〟がグンッと引き留める。


「……夏杏耶」

「よう、泉沢じゃん」


後ろで扉が閉まった後、正面で交互に呼ぶ2人を見上げながら、痛めた手首をこっそり摩った。