【完】片手間にキスをしないで


指先から電流が伝う。


喉元の管が、一気に締め付けられる。夏杏耶は唇を噛みしめて、涙が零れ落ちるのを懸命に耐えた。


分かってる……分かってるよ。奈央クンが私の事、本気で好きじゃないってことくらい。


付き合えたのだって……本当にたまたまで。


好きだから付き合う、なんて方程式が彼の脳裏に芽生えていたら、上手くいくはずもなかった。


そもそも今まで、住んでいる家のことすら知らされていなかった。



だから───奈央クンと同居できると聞いた時、ああ……これはチャンスなんだって思ったの。嬉しかったの。


でも、違かったんだって。


……ごめんね。先走って、すぐ周りが見えなくなっちゃって……本当、最悪だ。


「そ、そっかぁ……うんっ、分かったよ。奈央クンもいきなりで困っちゃうよね。ごめん私、すぐ舞い上がっちゃうところあるし、」

「いや……夏杏耶、」

「ほら、一緒に暮らしたりしたら、寝込み襲っちゃうかもしれないし……」

「夏杏耶」


立ち上がり、キャリーケースに手を掛けた夏杏耶を、奈央はグンッと後ろに引き寄せる。


掴まれた腕は、不本意にも熱を帯びた。