【完】片手間にキスをしないで



繋がれるのにはまだ、だけど。


シャラッ、と繋がれた手錠に、慣れてしまってきた自分が怖い。


「ねぇ……なんで逃げてきたの?女子の視線は嫌いじゃないんでしょ?」


夏杏耶は自然と取られた手に口を尖らせながら、前を行く背に視線を刺す。


「うーん……なんだろうね。見世物にされたくなかった」

「え?」

「あと、夏杏耶ちゃんと……2人きりに、なりたかったのかも」


一瞬だけ掠れた鮎世の声。人気のないエレベーター前で立ち止まる足。


「……」


……その言い方は、すこし語弊を生むと思う。


と、心の内で忠告を浮かべながらも、声に出すことはできなかった。


だって、足を止めた彼は振り返りながら、フードの中で頬骨のラインを赤く染めていくんだもの。


ボボボッ、と効果音をつけたくなるくらい、目に見えて。


「あ、ゆせ……」

「あー……ハハ。可愛い子と2人きりって、緊張するなぁ。……さすがに、俺でもね」