【完】片手間にキスをしないで



「(円)か……なるほどね」

「えっ。鮎世もしかして、」

「いや。ハテナに入る数字だけね」


数字、なのね。


夏杏耶はぽかんとしたまま、思考を巡らせる彼の横顔に思わず見入る。


……鮎世って一体、何者なんだろう。頭の色ははっちゃけているけれど、中身は冷静で聡明で。


そういうところは、少しだけ奈央クンに似ている。


「入るのは、パンケーキの値段×2(つまり)1224」

「1224……よくすぐに解ったね」

「ここ、看板見た時からおかしいと思ってた。キリ悪いじゃん、パンケーキの値段だけ」


おやつ時、少しずつ賑わい始めるカフェの入り口。変わらず立ってるボードに『パンケーキ、612円』の文字。


……確かに、言われてみるとそうだ。


「ねぇ、あの子カッコいい……手錠してるけど」

「ほんとだ。手錠してるけど」


無駄に頷きながら納得していると、黄色い声が降る。


彼はそれを見兼ねてか、再び夏杏耶の手を引いて横を抜けた。