【完】片手間にキスをしないで



──────……


「食べ辛い」

「だよね。で、どう?味は」

「おいしいけど……視線が痛い」


パンケーキを頬張りながら、出来るだけ肩を狭める。鮎世はどうにも、女子の視線を集めやすいからだ。


「ねぇ。そういえば、何でフード被ってるの?いつも。昔は……小学生の頃は、被ってなかったよね?」


唐突に。興味本位で訊いてみる。


「覚えててくれたんだ。奈央しか見えてなかったのに」

「……少し、だけだよ」

「うん、そっか。……フードはさ、中学の頃からの癖なんだよね」

「癖?」


ちょっと、多すぎない?と突っ込みたくなるほど、ふんだんにシロップを掛けながら鮎世は言う。


その瞳は、珍しく静かに色を落としていた。


「こう見えても俺、気弱くて……あ、喧嘩は強いんだけどさ。いつからか、人の視線が怖くなったとき、これ被り始めたんだ」

「人の視線……たとえば、女子の視線とか?」

「それは大歓迎」

「ああ、そう」