【完】片手間にキスをしないで



「解けたって……じゃあ、早く次の暗号を見つけに、」

「うん、行こう。パンケーキ食べに」


パンケーキ?───そう復唱する間もなく、手錠に繋がれた手をキュッ、と握られる。


「ちょっ、と……なんで手……ッ」

「手錠のまま引いたら痛いでしょ。夏杏耶ちゃんが」

「そうかもしれないけど……」


まだ奈央クンとも、しっかり手を繋いで歩いたことないのに……それどころか、ちゃんとしたデートすら……。


握られた手に視線を落としながら、手を引かれながら、夏杏耶はひとり虚しさを噛みしめた。


奈央クン……私、他の男の子と手繋がれちゃってるよ。いいの?


……なんて、気にするわけもない。ペアが決まったとき、こちらには一目もくれず、真っ先に静と行ってしまったんだから。



「あった。パンケーキ」


キャンパス内。とある小講義室を利用して設営された『パンケーキカフェ』。


着くなり鮎世は、ゆったりと口角を持ち上げた。