【完】片手間にキスをしないで


「そうだよ……だって、転校とか嫌だもん……せっかく頑張って、奈央クンと同じ高校に入れたのに」


───『嫌だ、嫌だ。絶対イヤッ』


隣の県に転勤だ。


同じデザイン会社に勤める父と母からそう言われたとき、思い切り駄々をこねたことを思い出す。


「だからって、なんでウチなんだよ」

「お母さんが……絆奈さんに掛け合ってみるって。奈央クンが住んでるところ、間借りさせてくれないかって。そしたら絆奈さんがね、」

「『もう一緒に住んじゃえばいいじゃん!』とか言ったんだろ。どうせ」

「うん……そう」


一言一句(たが)わない。正確には『付き合ってるんだし、何も問題ないっしょ』と、添えられていたけれど。


思い返す夏杏耶を、奈央は流し目に捉えて言った。


「とにかく。アイツがなんと言おうとウチは無理」


きっぱり、刺すような口調ではっきりと。


「な、なんで……私たち、付き合ってるよね……?」

「ああ」

「じゃあ、なんで……」

「それはこっちの台詞。だからって、なんで一緒に住まなきゃなんねんだよ」