女手ひとつ、単身赴任。そうして奈央を、昔の〝仲間〟であった居酒屋の店主に預けたのだった。
「よろしく、って言われたよ」
「何が」
「『奈央をよろしくね』って。私、なんでもするよ。料理だって嫌いじゃないし、洗濯物とかほら、パンパーンッてお日様の下に干すの大好きだし……っ」
「普通に考えて無理だろ。お前も俺も高校生……一緒に住むなんて」
「うぅ……」
ヒュウッ、とやかんが鳴くのと同時に立ち上がり、彼は手際よくお茶を淹れる。
夏杏耶はその様子を見上げ、カーペットの上で縮こまった。
「お、お願い……私は、奈央クンとがいいの。奈央クンの傍を離れたくないの。だから……」
「それが理由?」
「え……?」
「転勤する両親に、ついていかなかった理由だよ」
1人用の座椅子に掛ける奈央は、まだ眼鏡を外したままお茶を啜る。そういえば、あの分厚いのは伊達だったっけ、と今更ながら思い出した。



