「ふぅん……でも、私は言ったからね」
代わりに膨れ面を再開すると、奈央は唸りながら額を抱えた。
「だからって、昨日の今日ってのはねぇだろ……普通」
「違うよ……昨日の今日じゃないし」
「は?」
「絆奈さんは言ってたもん……『奈央はオッケーだから』って」
「……あのババァ……」
眉をピクリと動かした後、彼は大きく息をつく。
ババァ、もとい絆奈は奈央の母親で、ある日を境に奈央にひっつきまとっていた夏杏耶を、実の娘のように可愛がってくれていた。
家が近いわけではなかったけれど、絆奈のおかげもあり、奈央とは堂々『幼なじみ』と言えるほどの仲になれたわけだ。
「全然連絡くれないって、心配してたよ?絆奈さんのとこはまだ寒いけど、こっちはどうかな、風邪ひいてないかな、って」
「んな心配するわりには雑なんだよ……息子の扱いが」
「そう、かな?」
「お前も、真に受けんなよ。アイツの言うこと」
そう言いながらも、実は寂しいのかな……と夏杏耶は巡らせる。
本当に、急に。1年前、彼女は仕事の関係で、ビュンッと1人北国へ飛んで行ってしまったのだから。



