「うん、そーそー。ジャムは熱いうちにスポンジへ。形崩れないように注意ね~」
「はい」
「本当、上手になったね。私、そろそろ必要なくなっちゃうかな……?」
思ってもいないことを、ぬけぬけとよく言う。
「いえ……さすがに一人では無理っす。レパートリー、増やしたいんで」
奈央は手を動かしながら「よかった」とわざとらしく安堵する百田に、気付かれないよう息を吐いた。
「ねぇ、冬原くん。そういえば」
「……?」
「今日の面談、どうだった?」
不覚にも手が止まる。分かっていて掘るのか、この女。
「普通っすよ。普通に、四大勧められました」
奈央は平静を保ったまま流し込む。そして、コーティングされていくスポンジ。
それは、血なまぐさい過去を包む、ヴェールのようにも思えた。
「やっぱり。冬原くん、成績いいもんねぇ。でも、製菓に行きたい気持ちは変わらないんだ」
「変わんないすよ」
「そっかぁ……まぁ、いつでも頼ってね」
ちゃんと、慰めてあげるから───



