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「ただの家出じゃねぇの?」
「だから、違うって」
ローテーブルのひとつもない1DKのDの部分で、堂々巡りを繰り返すこと数分。夏杏耶はいよいよ口を尖らせた。
「昨日言ったじゃん、電話で」
「聞いてねぇ」
「……奈央クン、別の事してて、ちゃんと聴けてなかっただけじゃない?」
昨夜、金曜の夜のこと。図書室で約束をした通り、彼は電話をくれた。
でもよくよく思い返すと、生返事しか返って来ていなかったような気がする。
〝今日からの〟大事な話をしたというのに……。
彼の真似をして眉をひそめると、奈央は「ンンッ」と不自然な咳ばらいを挟んで言った。
「……別に、何もしてない」
怪しい。怪しすぎるよ、奈央クン。
右下に逸らされる視線は、彼が隠し事をするときの合図。夏杏耶はそれを見抜いていたけれど、あえて触れはしなかった。
こういうのは「触れるだけ野暮だ」と、同じクラスの美々が口酸っぱく唱えていたからだ。



