「ん?」

私は顕微鏡から顔を上げて後ろを振り向く。

「今日のその服、この角度から中全部見えるよ」

淡々とした涼しい表情。

信じられない。

私はとっさに胸元を左手で抑えたけど、時すでに遅し。

「見た?」
「見たけど、べつに」
「べつに、なに?」
「大したことないじゃん」

そう言って理仁が笑う。

「うるさい、見んな」
「教えてあげるのも俺の優しさだよ」

睨むと理仁は笑ってる。

「李さん、教えてくれる?そういうの」

李さんというのは、一学年上の留学生だ。
私以外、院生唯一の女性。

とても穏やかな女性だし、日本語もうまいけどそこまで指摘してくれるほど仲は深くない。

「教えてくれない」
「俺でよかったじゃん」
「なんで?」
「俺、ミジンコにしか興味ないし」

付け加えたように「ね」と言ってきた。
何が「ね」だ。

好きな人に服の中見られただけでもショックなのに、それでもミジンコに劣るという女としての虚しさ。

「卵にホルモン入れるの、私だって上手いし」

そう言って私はジュースを買いに研究室を出た。