カサンドラの涙

世人に声をかけられ、潤はすぐに「桜さんを助ける」と言った。誰も彼女の苦しみに気付いていない。このままではきっと手遅れになってしまう。

「ねえ!」

潤が静香に声をかけると、静香はゆっくりと振り返った。その顔はどこか怯えている。人見知りなのだろう。

「な、何?」

静香は怯えた声で言う。潤は「お兄さんのことで何か悩んでるの?」と直球で訊ねた。静香の肩が大きく跳ね、瞳孔が開く。動揺しているようだ。

「な、何で……」

静香が訊ねると、隣にいた世人が人懐っこい笑顔を静香に向けながら言った。

「こいつ、人の感情を読み取れるんだよ。桜が友達からお兄さんのことを聞かれた時、苦しいとか悲しいとか思ってたんだろ?それを潤はしっかり読み取ってたんだ」

「でも、きっとわかってくれない……」

静香はそう言い、俯いてしまう。これまでもずっと諦めてきたのだろう。潤は真剣な顔で口を開く。

「カウンセラーを目指す者として、桜さんの話したことは全て秘密にします。他の人に話したら、訴えてもらっても構いません」