カサンドラの涙

チラリと潤が静香の方を見ると、静香は友達から「これからショッピングに行かない?」と誘われているところだった。静香の顔は変わらずどこか暗い。

「ごめんね、家事を完璧にしないとお兄ちゃんに小言を言われるんだ」

静香が無理やり笑った顔で言うと、友達は「お兄さん、相変わらず厳しいんだね」と笑う。

「いいお嫁さんとして送り出せるようにしてくれるんじゃない?」

「って言うか、一年の終わりからずっと同じこと言われてるよね?静香、ちゃんとしなきゃダメだよ」

「そうそう!お兄さんを全力で支えなきゃ」

友達がそう言うたびに静香は俯いていく。そして、「うん……」と返事をしながら立ち上がり、教室を出て行った。その後を追って潤も教室から出る。

潤は静香を観察して、心理学で学んだことを必死に思い返していた。頭の中にあるページをめくり、膨大な数の知識の中からもしかしたらと思うものを並べていく。

「潤、どうしたんだよ?」