カサンドラの涙

「あんなイケメンでエリートなお兄ちゃんとか、静香が羨ましいわ」

「本当にそれな！うちのお兄ちゃんなんか底辺もいいところだよ」

周りが笑顔で話す中、静香だけが俯いていく。そして、その口がパクパクと動いた。潤は、その唇の動きから静香の言いたい言葉を読み取る。そして固まりそうになった。

『死にたい』

兄の話をしていただけだ。それなのに、静香は『死にたい』と口にした。潤の心がギュッと締め付けられる。

潤は静香と話してみることを決め、席に座った。



学年集会やホームルームが終わり、生徒たちはすぐに帰る支度をする。

「せっかくだし、みんなで飯食って帰ろ」

「カラオケ行こ〜」

そんな楽しげな会話があちこちから聞こえてくる。潤も、午後からは世人と家で映画鑑賞をするつもりだ。映画館で見ればいいのでは、と思う人もいるだろう。しかし、映画館では音量を自分で調節できない。大きな音が苦手な潤にとっては辛い時間になることもあるのだ。