カサンドラの涙

「桜静香(さくらしずか)。一年生の頃はテニス部のマネージャーやってたんだけど、一年生の終わりになって急にマネージャーやめたんだよ。両親が事故で死んで家事をしなきゃいけないからって言ってたらしい」

「家事?生活費を稼ぐアルバイトじゃなくて?」

「生活費は社会人のお兄さんがいるから大丈夫らしい。超一流企業に勤めているエリートなんだと」

「へえ……」

潤がチラリと静香を見ると、静香は初めて同じクラスになった人と話している最中だった。話題は兄弟がいるのかどうかで、話している相手は一人っ子のようだ。

「いいなぁ〜!お兄さんがいるんだ。ねえ、写真見せてよ」

「うん、いいよ」

そう話す静香の目は暗い。前から暗かった目がさらに暗くなっている。

静香が写真を見せると、クラスメートは「すごいイケメン!」と頰を赤く染める。すると、静香の友達が集まって「静香のお兄さんって××会社で働いてるエリートなんだよ」と自分の家族のように興奮気味に話す。