言いたいことを何でも口にするため、保育園に通っていた頃からトラブルが絶えなかったそうだ。しかし、頭はよく何でもこなせるタイプだったため、いい学校に入学していい会社に就職することができた。だが、会社でもトラブルをしょっちゅう起こしているらしい。

「取引先の人に失礼なことを言って怒らせてしまう、ということがたびたびあるの。でも、話術に長けているから相手の怒りをすぐに忘れさせることができて……。営業の成績はトップで、仕事の覚えも早くて、でも同僚や先輩からはコミュニケーションに問題があるからってあまりよく思われていないんだ」

だから、お兄ちゃんに友達って呼べる人は一人もいないの。そう言って静香は笑う。悲しみを含んだ笑顔だった。

「お父さんたちは、何とかお兄ちゃんのコミュニケーション能力を何とかしようとしていたけど事故で死んで、そこから私が家事を全部担当するようになったんだけど……」

自分は何もしないのに、お礼の一つもなしに文句しか言われないのだ。ハンバーグにチーズが乗っていない、シャツのアイロンをかけ忘れている、棚の上にほこりがある、キッチンに水がこぼれている、そんな細かいことを言われ続け、死にたいと思うようになっていったのだ。