そして、彼のひとり息子である僕――竹本一郎 将来的に会社を引き継ぐのは自然な流れであって、これといって不都合はないが――。
「手続きの方なら済ませてある。父さんも昔通った大学で寮も備わっているぞ」
だが、僕への相談も一言もなしに、それも「買い物を頼む」的なニュアンスで、決まってしまうのはどうかと思う。
「――しっかり学んでこいよ」
「⋯⋯⋯⋯」
とはいえ、変わり者の父の破天荒さには僕も、隣の母も慣れている。
僕が“残念”と言われる由縁も、おそらく父の影響と、この家の莫大な資産によるものに違いない。
そんなふうにして、春からの留学が決定し、その翌月、僕は大きなトランクを屋敷の使用人に押し付けられて
―――現在に至る。



