残念御曹司の最初で最後の恋物語


茶目っ気たっぷりに笑ったその顔は、最期だった。

彼女はその日が最期であることを、予知していたのかもしれない。

麗しい容姿をもちながら、平凡をのぞみ、派手なことを好まず。

花で言うなればカスミソウのような結。


カスミソウといえば脇役ともいわれるが、

それでも、今後、僕の人生には彼女以上の主役は現れることはないだろう――



なぁ、結。
君は、出会った日のことを覚えているだろうか?



近況報告を終えた僕は、ゆっくりと顔を上げた。


「パパ! 行くよー!」

「⋯⋯おぉい! 結花ぁ! 置いていくなぁー!」


寂しくないと言えば嘘になる。

しかし、僕は、君が残してくれた大切な家族と共に、これからも生きていく。


君と共に。




END――