残念御曹司の最初で最後の恋物語


しかしながら――


僕には、彼女を失う心の準備など出来ていなかった。

彼女は僕と出会わなければ、もう少し永らく生きられたんじゃないだろうか?

結婚して苦労をかけなければ、健康に生きられたんじゃないだろか?

僕なんかと家族にならなければ―――


『だめよ。変なこと考えちゃ』


前よりも小さくなった手が、頬に触れて思考を遮る。

入院生活が三ヶ月目なった頃、僕はまともな思考を持ち合わせていなかった。


『私はあなたにとても感謝している。だから――そんなあなたを侮辱したら、いくらあなたでも許さないわ。一郎さん、愛してる』

『――っ⋯⋯ありがとう、ゆい⋯⋯』