「⋯⋯もう、一緒にいれないの？」
僕は、言葉足らずだった。
しかし同時に、溢れ出る雫がとても美しく目を奪われてしまった。
ダイヤモンドのようにキラキラ輝くそれは、僕と離れることに怯え、こぼれ落ちているのだから。
美しいそれを見ていたい気持ちにも駆られたが、胸を引き裂かれそうな気持ちには敵わなかった。
「――そんなわけない。」
震える身体を引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
彼女の手からカップが転がり、コーヒーが流れる。
しかし、それに気を取られている彼女を、構わず捕まえた。
「一郎さん⋯⋯」
「本当は君が大学を終えてから伝えるつもりだったんだが」
豪華なディナーも指輪もなんにもない。
あるのはふたりのマグカップと、こぼれたコーヒーのみだ。
だけどそんな綺麗な涙を見せられたら、言わずにはいられない。
「結――僕と結婚してくれるかい？」
タケモト家のひとり息子が、こんな平穏なプロポーズをしたなんて笑われるかもしれない。
本当であれば、高級ホテルでディナーの最後に大きなダイヤのついた指輪を渡すくらいの演出はしたかった。
しかし、そうは言っていられないほどに、彼女の涙に心が突き動かされた。
「ずっと、あなたについていくわ」
