ネオンに照らされた、抱きついた先の同期を見上げて、私は満ち足りた気分で更にギュッと彼を抱きしめる。

「……思い出した。エイプリルフール。……なるほど、私を救うための粋な嘘だったわけだね?」

「そういうこと。ほら、もう12時過ぎるぞ、嘘の時間はおしまい」

私をペイっと引き剥がして、篠塚は同期同士に戻ろうとする。

「特別に、明日からも遠藤さんの前だけでは恋人同士のフリを許可してやる」

「助かります……」

ペコリと頭を下げたあとで、私は唯一気になったことを思い出して篠塚を見上げる。

「それで、篠塚の好きな人って誰なの?」

分かりやすく、本当に嫌そうに篠塚は私を振り返った。

「それは誰でもいいだろ」

「いや良くないでしょ。さっきの飲み会で付き合ってるって言ったの、遠藤さん以外にも聞いてる人いただろうし。一応その好きな人にだけでも否定しておかないと」

それが篠塚を利用する責任ってもんよ!と腰に手を当てる。
篠塚は一度腕時計をチラリと見て、そのあと真っ直ぐに私を見た。

「……お前が好き」

言われた後に私もおもむろにスマホを取り出して、そこに書いてある時計の数字をそのまま声に出す。

「4月2日0時00分01秒」

これは。

「……えっ、どっち!?本当なの嘘なのどっちなのこれは!!?」

篠塚が言った瞬間にはエイプリルフールだったはずだけど、私が時計を見た瞬間には日付は4月2日になっている。

焦る私を嘲笑うように、ハッハッハと声を大にして笑いながら篠塚は私に見向きもせず駅に向かって歩いていく。

その広い見慣れた背中を、ど突くために私は小走りで彼を追いかけた。

fin.