その後、松井先生は私を見るなり近づいきて、前よりも親しげにするようになった。





でも、松井先生は他の生徒達とも仲よさそうにしている所をよく廊下などで見かけたので、そういう人なんだろうと思っていたし、周りの子達も特別だとは思っていないようだった。





そんなある日、放課後に中学が同じだった他のクラスの子と話し込んでしまい、遅くなってしまった。





自分の教室にカバンを取りに戻っている時に、会議などに使われる教室より広い部屋のドアが少しだけ開いていて、中から先生の声が聞こえた。





その声の雰囲気が、いつもとは違い重い感じだったのを感じた私はつい立ち止まってしまった。






先生が誰かと話していた。






相手は松井先生だった。






「松井先生は、まだ教師になってそんなに経ってないから、アドバイズというか..。
あまり特定の生徒と仲良くするのは、よくないですよ。松井先生がその子に興味があるように見えてしまいますから」







「特定の生徒?」







「特に自分の受け持ち以外の生徒の事です」






「先生の言っている対象の生徒って、先生にとって特別な子なんじゃないんですか?
例えば...絢とか?」






自分の名前が聞こえ、息をのむ。







「松井先生。なぜそこで絢の名前がでてくるんですか?」






と言う先生の声が聞こえると、






今度は松井先生が、





「確かに、絢は俺のお気に入りの生徒のひとりです。教師も人間だし、お気に入りができてしまうのは仕方がない事だと思うんですよね。現に絢は先生のお気に入りでもあるんじゃないんですか?
あまり二人で話している所は見かけませんが、先生が絢を見る目を俺は前に見ましたよ」






「それはどういう意味ですか?松井先生」






先生は感情を押し殺したような声で答えた。






「わざわざ俺に言いに来るなんて、俺に嫉妬してるんです..かっ」






松井先生が言い終わるかどうかという所で、先生は松井先生の胸ぐらを掴んだ。






「変な事を言うな」






先生の声はとても低く、怖かった。





それでも松井先生は怯む様子もなく






「絢は、体育委員ですし、俺は彼女の体育教師でもありますから、そんな事を言われる必要はないと思いますし、この間のようにこれからも体育委員の手伝いをお願いして二人きりになる事もあると思います」






とハッキリ言い放つと、先生の手を解きドアの方に歩き出した。







私は咄嗟に隠れてしまった。






松井先生はドアを勢いよく開けると、早足で出て行ってしまった。





それから、少しすると大きな音がした。






先生が机を叩いた音だった。