生徒の二人がドアの外で騒いでいる声が聞こえる。





その二人に先生が何か言っているがよく聞こえない。





なかなか引き下がらない二人を連れて、先生はどこかに行ったようだった。





先生の部屋でお風呂に入り、髪を乾かして自分の部屋に戻った。






同部屋の綾ちゃんには何があったのかを話したが、






「その事は他には言わない方がいいよ」






と綾ちゃんに言われた。






私も同感だ。






帰って来てから数日後、写真部の子が修学旅行中に撮った写真をたくさん持って来て、みんなで見ていた。






「欲しい写真があったら言ってね。スマホに送るから」







写真には番号が振られていて欲しい写真の番号を送るようにと、クラスのみんなに言った。






私は、自分が写っている写真と先生が一人で写ってる写真をこっそりお願いした。







その後しばらくすると、何だか周りから見られているような感じがした。







ヒソヒソと私の方を見て話している子もいる。





何があったんだろうと思っていると、





『私が修学旅行先のホテルの先生の部屋で先生と2人でいた』






と言う噂が出始めていた。





噂というか、本当の事なのは本当の事だけど..。





あの時、私と目が合った子が発信元なのは確実だった。





ただ直接、私に何か言ってくる子もいなかったので、ほとんど気にせずに生活をしていた。





その内に噂も聞かなくなり、ヒソヒソ話をする子もいなくなった。





後ろの席の萌ちゃんに






「ヒソヒソ言われなくなってよかった」






と言うと





「前に職員室の前で先生が囲まれてて、その子達に絢ちゃんの事聞かれてたけど、『そんな噂を立てるな!絢にも何か言ったりするなよ』って怒ってたよ。
みんな、先生に嫌われたくないから言わなくなったんじゃない」






と教えてくれた。







そっか..。




先生が対処してくれたんだ、と守られたように感じ嬉しい。






そんな中、隣のクラスの担任の体育教師が産休に入る事になった。






そして、代わりに来たのは松井先生と言う大学を出たばかりの若い先生だった。






松井先生は大学時代に陸上で良い成績を残した事もある、かっこいい先生だったので、あっという間に生徒達から人気が出た。





ウチの担任派と松井先生派に分かれ出した。





先生も大学時代に同じく陸上で良い成績を残し、社会人になってからも成績を残していたので、陸上部の顧問をしていた。





松井先生も陸上部の顧問になり、陸上部の子達はみんなに羨ましがられるようになった。





ある日、移動教室の為に綾ちゃんと廊下を歩いていると向かいから松井先生が歩いてきた。






私を見て立ち止まると






「あっ!Aliseだ」





と私に向かって言ってきた。





Aliseとは、今、話題になっている綺麗なモデルさんの名前だった。






何を言ってるのかわからず、こちらを見てたけど私に言っているのではないのだろうと会釈だけして通りすぎた。





その日以来、松井先生は私を見かけるたびに私の事をAliseと呼ぶようになった。





みんなの前でも大きな声で言うので、恥ずかしくなり、なるべく会わないようにしていたある日、偶然、廊下の角でぶつかりそうになった。




「おお!Alise!」





とまた、言ってきた。






隣にいた綾ちゃんが





「松井先生。絢ちゃんはどっちかって言うと西条ゆきの方に似てるんじゃないですか?」





と言った。西条ゆきは有名な歌手の名前だ。





それを聞いた松井先生は







「そっか。絢って名前なのか」








と言ってニコッとすると行ってしまった。





その日からは、松井先生は私の事を絢と呼ぶようになった。






ある日、廊下を歩いていると後ろから






「絢!」






と呼ばれ、振り返ると松井先生がいた。





松井先生は私の方に近づいてきて私の手を握りそちらに目を落とすと、






「絢。爪伸ばしすぎじゃないか?切ってやろうか?」





と言ってきた。




いきなり手を握られ驚いていると、






「絢は俺のクラスの生徒なので、俺が対応しますから、大丈夫ですよ松井先生」







と言って、先生が私たちの横まで近づいてきた。





松井先生は私の手を離すと





「そうですか、わかりました」





と言って、先生に笑顔を向けた後、職員室の方へと歩いて行った。





先生は、くるっと向きを変えると教室の方に行ってしまった。