生徒指導室のドアはいつになく重そうに感じた。
なかなか中に入れず、立ちすくんでいると、
中からドアが開いて先生が立っていた。
「いつまで、そこに立ってるつもりなんだ?」
変わらず先生の表情は冷たい。
重い気持ちのまま、どうにか生徒指導室の中に自分の体を移動する事ができた。
先生がそんな私の後ろでドアをピシャリと閉める。
狭い生徒指導室の窓の近くにある机の片側の椅子に先生が座った。
そして、私の方を見ると、無言で向かいにあるもう片方の椅子に座れと促した。
外は、晴れて明るかったが、薄いカーテンが引かれていたので、外から私たちの姿は見えない事だけが少し救いだった。
うつむいたまま座ると、少しして先生が
「あいつとはどんな関係だ?」
と聞いてきた。
「一度遊びに行きました」
「遊んだってどんな?二人で遊んだのか?」
声が厳しかった。
先生に自分の事を誤解されたような気がして辛かったので、先生の目をしっかり見つめると
「あの人は綾ちゃんのお友達でこの間、綾ちゃんに誘われて、あの人のお友達と4人でカラオケ行ったり、ボーリングに行ったりしただけです!」
と、思っていたより大きな声で言った。
でも、亘に返信しないで蔑ろにした事や、彼の家にみんなで一泊した事を先生に言えない罪悪感があった。
これらは私がもたらした責任がある。
決して、自分に非がなかった訳ではないのだから..。
言った後に、私はそんな事を考えながら俯いた。
「さっきのやつは、大学生か?」
頷くと、いきなり先生に顎を上げられた。
そこにはさっきより近づいた先生の顔があった。
「” 綾ちゃん ”ってウチのクラスの筧綾子の事か?」
私は、告げ口をしてるような気がして躊躇したが、先生は、私が綾ちゃんと仲いいのを知っているし、もう綾ちゃんの名前は出しちゃっているから逃げられないと思い、
「はい」
と小さな声で言って目を逸らした。
「なるほどな...」
と先生がボソッと言った。
顔を逸らそうと動かした途端、先生の方に顔をまた引き戻された。
「お前は何もわかってないんだな。もう高校2年なんだぞ、
男がどんな風にお前を見てるか考えろよ」
と言って、先生は私の顎の位置にあった手をサッとどかした。
私は自由になって、先生から顔を背けた。
そのまま
「ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
と言った。
先生の
「もう行っていいぞ」
と言う言葉を聞いて、生徒指導室を飛び出して行った。
教室に戻ると、綾ちゃんが残っていた。
「絢ちゃん、聞いたよ。大丈夫だった?すごい心配したんだよ」
「うん。私のせいだからね。先生に怒られたよ」
と言った私の言葉に
「へーそうなんだ」
とだけ綾ちゃんは言った。