あの日感じた焦燥感はなくならないまま、どんどん卒業式が近づいてきている。







絢の様子は変わっていなかったし、松井先生の動向も見張っていたが何か2人の間に変化が起きた様子はなかった。







ただ、毎日脅迫めいた妄想に焦りを感じるばかりだ。







そんなある日の放課後、久しぶりに筧が待ち伏せをしていた。







筧を見つけた瞬間、感情が顔に出ていたらしく、筧の表情が一瞬強張った。







「先生」








小さい声で俺を呼ぶ。






「ちゃんと、先生に気持ちを伝えられないまま卒業したくないので、待ってました」







『チッ!』







もう放っておいてくれよ、今更なんなんだ。







「1年の時、拒否られるのが怖くて、あんな言い方になってしまった事を後悔してたんです」







上目遣いでこちらを見ている。この顔は前にも見た。







『コイツ、今まで俺や絢にしてきた事を俺が知らないと思っているのか?』







「先生の事が初めて会った時から好きでした!先生の為なら何だってできます!」







「初めて会った時って、お前とぶつかって保健室に運んだ時の事か?」






「えっ!?あっ、はい」







「あ〜、お前が貧血だって嘘をついて計画的に近づいてきた時か」







筧の表情が更に強張る。







「お前は本当に強かだな。俺、そういう人間苦手なんだわ」







筧の顔が真っ赤になった。







「俺の為なら何でもできるって言うなら、もう俺に構うのはやめてくれ。後これ以上、絢に何かしてみろ、ただじゃおかないからな」







筧は1歩後ずさった。






「なんでいつも絢ちゃんばっか...」





と聞こえるギリギリの小さな声で自分に言うように筧が呟いたと思うと、







「先生は絢ちゃんの事が好きなんですか?」






と、泣きそうな顔で俺に聞いてきた。







「お前に答える筋合いはない」







筧の目には涙が溢れてきている。







「お前がする事なんてお見通しなんだよ。バレないと思ったら大間違いだからな」







筧が俯いた。






「お前のやり方は間違っている」






俺は涙を流した筧を置いて、その場から立ち去った。







これで、彼女の思い込みが直ればいいんだが。







その日以来、俺の見ている前だけかもしれないが筧はおとなしくなった。







絢や松井先生も相変わらずだ。







どうなっているんだ?






松井先生は絢に告白したのだろうか?






気が気ではなかった。






そして少しづつこのままでは後悔するだろうという思いが強くなり、気持ちを固めていった。






もし、松井先生に先を越されていたとしても、卒業式が終わったら絢に気持ちを伝えよう。





その時までは、絢の先生を全うしよう。