ある休み時間、いつものように私の席に綾ちゃんが来た。
「今度、私のバイト先の大学生と遊ぼうって言ってるんだけど、絢ちゃんも一緒に来てね」
「あ、うん。わかった」
そこまで気乗りはしなかったけど、断るのはなんだか気が引けた。
綾ちゃんは学校には内緒でコンビニのバイトをしていた。
そのコンビニの近くには大学があり、そこの大学生が何人かバイトをしていると言っていた。
「今度の土曜なんだけど、3時に迎えに行くから。その日はそのままウチに泊まりにきなよ」
綾ちゃんはそう言うと、自分の席に戻っていった。
土曜になり家の近所の待ち合わせ場所で待っていると、綾ちゃんと大学生の2人が車で迎えに来てくれた。
大学生と遊んだ事なんてなかったから、なんだか緊張したけど、話してみると二人共、気さくでいい人そうだ。
カラオケに行ったり、ボーリングに行ったりした後食事をした。
綾ちゃんは相変わらずおもしろい事を言ってはみんなを笑わせてくれたので、とても楽しい時間を過ごす事ができた。
そろそろ暗くなってきたので、帰る時間かなと思っていたのだが、大学生の一人が
「俺、一人暮らしなんだけど、これから家に遊びに来ない?」
と言った。
綾ちゃんの方を私は見たが、綾ちゃんは私を見ずに
「いいね〜!絢ちゃん行こう」
と決めてしまった。
コンビニでお菓子や飲み物を買って、大学生の亘のアパートに行った。
みんなで話しをしたりゲームしたりして遊んでいる内に朝方になり、みんな少しの時間雑魚寝した。
昼までには起き出して帰り支度をし、連絡先を交換して帰る事になった。
もう一人の大学生の智希が送ってくれると行って、綾ちゃんと車に乗ったが、綾ちゃんの家は亘の近くだったので、すぐに降りてしまい
それからは、車の中で智希と2人きりになった。
他愛もない会話をしていたが、待ち合わせ場所と同じ場所に着いた時
「俺、絢ちゃんの事気に入っちゃった。今度2人でどこか行かない?」
と言われた。
返事に困った。
いい人そうだけど、2人で会うのは気が進まない。
そんな私を見て
「今度連絡するよ。その時までに考えておいて」
と言って帰って行った。
その日の内に亘からもメールがあった。
内容は智希が言っていた事と同じだ。
なんて返事をしていいかわからず、返信ができないままになってしまった。
その内に亘から何回もメールが届くようになった。
お願いだから、返事をくれと言った内容だった。
このままでは失礼なので、
『返信が遅くなってしまってすみません。この間は楽しかったです。ありがとうございました。今は忙しいので、遊びに行けそうにありません』
と返すと、すぐに
『ちょっとの時間でもいいんだ。週末がだめなら平日でもいいし。もう一度会いたい』
と言うメールがきた。
『ごめんなさい』
と言うメールを返した後は、何回メールを送られてきても返信はしなかった。
しばらくすると智希からもメールがあった。
彼は私が2人で会う事に抵抗がある事を感じ取ったのか、みんなでまた遊ぼうと言って来たが、亘の事もあるので、それもしたくなかった。
すると、彼はその事にも気づいたようで、
『ひょっとして亘からなんか言われたの?』
とメールが来た。
正直に話したら、智希はわかってくれた。
そして、
『またいつか遊ぼうよ。遊びたくなったらメールちょうだい。車が必要な時は運転手やってあげるから』
と言われた。
智希はいい人だな。
学校で綾ちゃんに亘、智希とのメールの事を伝えた。
すると綾ちゃんは
「うわっ!亘ウザいね。ごめんね。今度バイト先で会ったら言っとくよ。
でも智希いい人じゃん。つきあっちゃえば」
「いい人そうだけど、つきあうのは違うかなって思うんだよね」
「ええ。もったいない車も持ってるし、絶対付き合った方がいいよ」
私が困った顔をしているとチャイムがなった。
綾ちゃんは、じゃあねと手をあげると自分の席へと帰って行った。
それからも何回か亘からメールがあったが、綾ちゃんが直接話してやめさせてくれるだろうと、返信もせずに何日か過ぎた。
そんなある日、
クラスの子や他のクラスの子達が放課後、窓から外を見て、ザワザワしだした。
何かあるのかと思ったら、正門の所に亘が立っていて、近くにいる生徒に何か話しかけている。
嫌な予感がした。
綾ちゃんの姿は見当たらない。
私はそのまま、正門の方に走って行った。
声が聞こえる位置まで行くと亘の
「絢ちゃんって言う2年生知りませんか?」
と言う声が聞こえた。
恐る恐る近づくと、亘は私を見つけ、一瞬嬉しそうな顔をしたかと思ったら、すぐに悲しそうな表情になり、私の所へと近づいてきた。
「こんな所まで来てごめん。どうしても、もう一度話がしたくて」
「返信しなかったのは、申し訳なかったけど、学校に来られるのは迷惑です」
と言うと、亘の顔が赤くなった。
「じゃあ。どこか違う所で話そう。俺の車に乗ってよ」
と言って、私の手首を掴んだ。
私は、なんだか怖くなって腕を引いた。
一瞬、彼の手が離れたが、すぐにまた掴まれた。
「私、これからやる事もあるから、まだ帰れないし」
と言って腕に力をいれるが離してもらえない。
周りにいる人達の目も気になって恥ずかしかった。
すると
「すみません。ウチの生徒に何やってるんですか?」
と言う先生の声がしたと同時に先生の手が亘の腕を掴み私から離した。
離れた瞬間に先生は私と亘の間に入りこんだ。
「俺は、絢ちゃんに話しがあるだけです」
「でも、嫌がっているように見えますし、女子校に来るなんて、変質者と思われても仕方がないですよ」
「変質者って..!」
「周りが見えなくなっているようですね」
と先生が言うと
亘は周りを見渡した。
生徒達がヒソヒソと何かを言いながら、こちらを見ている。
亘は更に顔を赤くすると、立ち去ろうとした。
そんな亘の腕を先生は掴むと、彼に顔を近づけ
「絢にもう近づくな。今度近づいたら、いろんな意味で後悔させてやるからな」
と小声で言った。
驚いている亘の腕をぱっと離すと先生はニッコリと笑いかけた。
私は亘が走って自分の車に乗り込む姿をただ眺めていた。
先生は亘が去って行ったのを確かめると、ゆっくりと私の方に振り向いた。
「お前、何やってんの?」
その表情は冷たかった。
「このまま、生徒指導室に来なさい」
と言うと先生は俯いている私の横を通り過ぎて行ってしまった。