絢からの告白の後、絢への気持ちがはっきりしたものになった。







どこかで教師として、大人として、自分のその感情を認めたくない気持ちがあり、それからというもの葛藤する日々を送っている。







状況は聞いていたが、それでも筧と一緒に行動していた絢が一人でいるようになった。







筧は他の子達とつるむようになり、絢と話す事もなくなった。







その状況があの告白の日を境に変わった事で、絢がいきなり告白してきた事にも筧が関係している事は容易に想像できた。






いつまで、コイツは俺と絢を苦しめるんだ。






絢に電話して何があったのか、大丈夫なのか確かめたかったが、どの面下げて電話をかけれるっていうんだ?






何事もなかったかのように絢から電話してきてくれないかと願ってもみたが、自業自得だ。





あんな言い方で傷つけたんだ、かかってくるはずもなかった。






毎日、たくさんの仕事に追われ、余計な事を考える時間は無くなった事が幸いだった。






それは生徒達も同じ事で、絢も自分の事でいっぱいいっぱいの様子だった。







毎日家に着くのは遅く、疲れ果てていて、夜のルーティーンを素早く済ませベッドに潜るのみの生活だった。






寝る前にベッド横のサイドテーブルの上に置かれた、修学旅行の時の写真に写る絢を見て、その笑顔を見ると心が軋む。






そして、その夜、絢の夢を見た。






絢は俺に笑いかけてくれている。






よく見ると俺の腕に彼女の腕を絡ませて。






まるで恋人同士のようだな。






「このまま二人でどこかに出かけよう」






絢は悲しそうな顔をすると首を横に振り腕を解いて先へと行ってしまった。






悲しい。






ただただそう思った。






絢に俺を好きになって欲しかった。






そうしたら、彼女をつかまえる事ができる。






もう俺の手の中からすり抜けて行かないでくれ。






その時、絢がこちらを振り向き






「だって先生が私を傷つけたんでしょ」






と言った。





そうだ。俺が彼女の気持ちを拒否したんだ。





なんて矛盾な行動をとってるんだ。





俺は何がしたいんだ?






そして、目が覚めた。






虚しさだけが残る。






学校にはいつもより早く通勤した。






どうせやる事は山ほどある。






いつものように朝の準備をして、ホームルームをするために教室に向かう。






そして、職員室に戻り少なくなった取り巻きの子達とその他の勉強や受験の事で用事がある生徒たちの対応し終えて、会議室に向かう。






他の先生方がこの部屋を使わないのは、俺にとって都合が良かった。







そんな時、







「先生!私、大学合格しました」







絢が俺に言った。







一瞬、絢の笑顔に見とれてしまい何を言われたのか理解する事ができなかった。






しかし、絢が行きたい大学に行ける事、そしてその嬉しさを表情に出して報告してきてくれた事で心の曇りが一気に晴れたような気がした。






俺が喜んでいるのを見て、さらに嬉しそうな絢がすぐそこで話している。






まるで、何事もなかったかのように。






今までもこういう風であったかのように。






彼女が愛おしくてしかたがなかった。






その表情から目が離せなかった。





気がついたら、彼女の目の前まで近づいていて、もう制御できない強い何かに押され絢を抱きしめていた。





彼女の温もりが俺の腕の中で伝わる。






『ずっとこうしたかった。ずっとこうしていたい』






その瞬間、絢が俺の体から離れた。






その表情は戸惑っている。






下を向き「失礼しました」と小さな声で言ったかと思うと走り去っていった。






自分でも何が起きたのか理解できずにいた。