側から見たら、今の俺のポジションは羨ましいものなのかもしれない。






現に友人からもよく羨ましがられている。






でも、俺にとっては、毎日必要以上に気を使わなければならない。






この年頃の女の子達は繊細なくせに残酷だ。






でも、松井先生は楽しんでいるようだった。






俺は、そんな松井先生が羨ましかった。






あんなに素直に好意を受け止められたら、どんなに楽だろう。






そんなある日、松井先生が廊下で絢の手を握っているのを見た。絢も困っまているように見える。








『コイツ』









俺はすぐさま近づくと、松井先生を絢から離れさせた。






教師のくせになんなんだ。
しかも、絢は俺のクラスの生徒だぞ。





いつから絢の事を知っているんだ。






『絢』と呼んでいなかったか?







頭の中が松井先生と絢の事でいっぱいになっていた。






松井先生は俺が言った後も怯む様子はなかった。






多分、これからも絢に近づこうとしているのだろう。







苛立ちが収まらない。







多分、表情に出てしまっていたのだろう。
先ほどまで一緒に話をしていた生徒は、俺を見て少しこわばった表情を浮かべている。






それからは、松井先生の動向に気をつけた。






やはり、よく絢に話しかけている所を見かけたが、彼女に触れてる所はあの日以来なかった。






絢に親しげに話しかけれる松井先生にイラついたが羨ましくもあった。






彼の持ち前の明るさで絢はよく笑っていた。






俺が彼の立場になれたらと何度か妄想したりもした。






でも、彼は産休の先生の代講で来た教師だ。






産休明けにはこの学校からいなくなる。







それまでの辛抱だ。







それから時が経ち、学年も3年生になろうとしていた時。






産休を取っていた先生が都合で辞める事になった事を知らされた。






そしてその結果、松井先生がそのまま残る事になったのだ。






まだ、経験が浅いので副担任として隣のクラスを受け持つらしい。









『なんて悪運の持ち主なんだ』












校舎も変わり、新学年が始まった。





放課後、委員会決めを生徒達に任せ、俺は職員室へと戻った。





1人の生徒がしばらくして、決まった委員会名簿を持ってきた。






その中に絢の名前を見つけたが、寄りにもよって体育委員だった。






担当は松井先生だ。






今学年のうちのクラスの体育教師も彼なのに。






『これ以上絢と関わらないでくれ』






いやな予感がした。