綾ちゃんと仲良くなって、いつも一緒にいるようになった。




相変わらず、綾ちゃんは先生の事が気に入らないようで、よく先生の悪口や愚痴を言っていた。




そのせいもあって、私は必要な事以外、先生とは話さなくなった。




そんな状態が続いていたある日、




私は朝、遅刻してしまった。




うちの学校は朝のホームルームが始まる前までに教室に間に合わなかった場合、ホームルームが終わるまで、廊下で待たなければいけないと言う決まりがあった。






ホームルームが終わり、先生が教室から出てきた。





私の事を見ると、怒った顔でこちらに近づいて来る。





「絢。今日放課後残って反省文を書け。終わるまで帰さないからな」





と、いつもより低い声で言った。






とても怖かった。






教室に入り、自分の席についてもまだ、怖さがぬぐいきれなかったが





しばらく時間が経つと、なんだか理不尽な気がしてきた。





確かに遅刻した私が悪い、でも他にも私よりもっと遅刻している子はたくさんいるのに、なんで私だけ反省文を書かされなければいけないのだろう?




この感情は放課後が近づくにつれてどんどん大きくなっていった。





そして、放課後。





帰りのホームルームが終わった時、先生に反省文の用紙を渡された。




反省文用の紙は、B4サイズで細かな罫線がびっしりと引かれた横書きのものだ。
その端から端まで書かなければいけないと言われた。





「うそでしょ..こんなに書かなきゃいけないの」





誰もいなくなった教室で一人、反省文を書き始める。





最初は、反省している事を書いていたが、書かなければいけない量を見ているうちに、また、ふつふつと理不尽だと思う気持ちが湧いてきて、反省文の内容が先生に対する批判の文になっていった。





ようやく最後の行まで書き終わり、窓の外を見ると、もう真っ暗だ。





職員室まで反省文を持って行くと、先生方もほとんど帰っていて数人しかいなかった。





「先生、反省文持ってきました」





私は、怒っていた。
でも、顔は無表情だった。





「どれ、見せてみろ」





先生が読み始める。




最初は普通の顔で読んでいたのだが、どんどん読み進んで行くうちにその表情は怒りの表情へと変わっていった。





「おまえ、本当にこんな風に思ってんのか?」





朝の時のような、低い声で私に聞いた。





怖かったが、私も怒っていた。






「はい」






とはっきりとした口調で答えた。





すると先生は立ち上がり、私の手首を掴んだ。





「こっちに来い」





静かな低い怒りの混じった声でそう言いいながら引っ張られ、職員室の外へと通じるドアの方へと早足で歩いて行くと、ドアを開け外に連れて行かれた。





部活の子達も、もう帰っている時間。




辺りは真っ暗で、静まり返っていた。




職員室の窓からの光と少し離れた所にある自転車置き場の薄暗い光だけの場所にいた。




職員室からは私達の事は見えないだろう。




先生は、近くにあったパイプ椅子に座った。
下を向いて黙っている。




その沈黙が、さらに怖さを増した。





怖さもあったが、でも自分は間違っていないと言う強気な気持ちもあった。




すると、





「絢。俺の事どう思ってるんだ」





と先生が先ほどまであった怒りの声ではなく、そっと小さな声でうつむいたまま言った。





そんな事を聞かれるとは思っていなかった。




なんて答えたらいいのかもわからなかった。





私が、黙っていると、先生が顔を上げこちらを見上げた。





その表情は、なんだか悲しそうでもあった。




さっきまでの私の中にあった怒りはもう、そこにはなかった。




別に先生を悲しませたかったわけではないのに..。




何も言えないでいると、




「学年が変わったばかりの頃、お前は俺とよく話しをしてくれてただろう。
最近、俺を避けてるように感じるのは、俺の勘違いなのか?」




と言われた。




先生は普段からクラスの子にも他のクラスの子にもチヤホヤされてるから、
私と特に話さなくても別に何も感じてないし、下手したら気づいてもないんじゃないかと思っていた。





「勘違いじゃ..ないです...」





こんな先生を見ていたら、なんだか嘘がつけなかった。





「なんで俺を避けるんだ?俺が何かしたのか?それとも、俺の事が嫌いになった?」





一気に聞かれ、なんて答えたらいいのか、わからなかったが、




「先生の事、嫌いじゃないです」




と答えると。





先生の表情が少し明るくなった。





「ただ..友達との関係で、先生とあまり話してると..」





と言うと、先生はなんだか察しがついたようだった。





「ああ。そっか...わかった」





と言うと。もう気にしている様子はなかった。




「なら、もう大丈夫だ。帰っていいぞ」




といつもの先生になっている。





「はい。じゃあ失礼します。」





と言って職員室のドアに向かって行こうとした時、






「まあ。どんなに避けても絢は俺の魅力からは逃げられないけどな」





と少年のような笑顔で言った。





きょとんとしている私を追い越して先生が職員室に入って行った。







あれ?私、遅刻の事で反省文書かされたんじゃなかったっけ..?