先生からは逃げられない






思っていたようにはいってないが、それでも確実に絢との距離は近づいている。





話しかければ、笑顔で話してくれて、その笑顔を見れるだけで嬉しかった。





そんな日々がこれからも、続くと思っていた。






俺は教師で絢は俺の生徒。







別に特別な関係を望んでいるわけではなく、ただ彼女に興味があった。






絢は他の生徒のような、簡単に片手間の恋愛をするような薄っぺらさがなかった事も俺に安心感を与えた。







そんなある日、廊下で絢を見つけて声をかけた。






絢はニコッとこちらをみて会釈をしたが、何も言わなかった。








胸騒ぎがする。








笑顔は見れたが、いつもと違う。








俺は人の感情に敏感だ。






何か違和感があった。








その日は、ほぼ絢の声を聞く事はなかった。






それからも、俺に対する態度は変わらなかった。






『何があったんだ?』








『何かしてしまったのか?』







心の中で焦りが生じる。







また、職員室の外のバルコニーで持ち伏せしてみようか?





職員室の俺の席から外を見て、絢が通るのを待っていた。





なぜか前のように待ち伏せする勇気がなかった。







嫌だったら..などといろんな負の事を考えてしまっていた。






その時、絢が誰かと話しながら職員室の前を通過して行った。




誰かといるなら挨拶ぐらいしかできないだろう。




そして、次の日もそのまた次の日も同じだった。






なんで、こんなに話せないんだ。






苛立ちが募ってくるのがわかった。








状況はどんどん悪化して行ってるように感じる。






なんとかしたい気持ちと、どうにもできないもどかしい気持ちが混ざり合っている。






そんな中、絢と話すチャンスが訪れた。





絢が朝、遅刻したのだ。







ホームルーム中に教室の外で待っている絢を見つけた。







言わなければならない事をなるべく簡潔に伝え、ホームルームを切り上げる。






教室から真っ先に出て絢を見た。





遅刻してしまった事からか、気まずい表情を浮かべていた。






久しぶりに彼女の本当の感情を見る事ができた変な安堵と共にやりきれない虚しさが、苛立ちに変わった。





放課後残って、反省文を書くようにと伝える。






絢の顔が硬直していた。





私情を持ち込んでしまったと後悔したがもう遅い。






絢よりも遅刻している生徒は他に何人かいる。





遅刻が理由で反省文を書かされる事になったのは、絢が初めてだった。







一日中、罪悪感もあり絢の顔がなかなか見れなかった。






そして、放課後になった。






職員室の自分の席に座りここで何かやれる事はないかと考えていた。





俺が席を外している時に、来られて書いた反省文を置いてかれたら、元も子もない。





二人だけで誰にも邪魔されずに話がしたかった。





俺の反省文の用紙は『地獄の反省文』と呼ばれている。
書く量が半端じゃなく多い。





長時間残ってもらわないと誰かが絢を待ってしまうかもしれない。





何時間か経ち、外も暗くなってほとんどの先生や部活がある生徒達も帰ってしまった頃に絢が現れた。





ぱっと見ではわかりづらいが、その表情から怒っているのが伝わってきた。





努めて普通の態度で接し、反省文を読んだ。





初めのうちは、いかにも反省文と言ったような事が書かれていたが徐々に、その内容は俺への理不尽だと思う不満が書き綴られていった。







『ああ、嫌われてしまった』






と思い、悲しみが湧き上がる。





反省文に書かれている事は本心なのかを聞いた。





自分でも驚くぐらい自分の感情が抑えられてない声がでた。





それでも絢は怯む事なく、俺の目をまっすぐ見つめて「はい」とはっきり返事した。







俺は、咄嗟に絢の手首を掴むと、職員室の外へと連れ出した。





職員室にはまだ教師が何人か残っていた。






職員室からも見えない薄暗い場所まで連れてくると、自分を落ち着かせるために、そこにあったパイプ椅子に座って俯いた。





絢は何も言わずに佇んでいる。






率直に聞きたい事を聞いてしまおう...








「絢。俺の事どう思ってるんだ?」








何も答えない。





居ても立っても居られない感情のまま、続けた。





俺の事を避けているのか聞いてみる。





すると、絢は少し驚いたような申し訳なさそうな表情をして、避けている事を肯定した。





どん底に叩きつけられたような気分だ。





『なにが原因なんだ?なんでも直すから、嫌わないでくれ』





こんなに高校二年生の女の子の事で一生懸命になっているなんて、俺はどうかしてる。





でも、止めることができない。





心の中の焦りが表へ出ようとした瞬間、








「先生の事、嫌いじゃないです」






絢が確かにそう言った。





先程までの暗闇が一瞬でパッと明るくなった気がした。





しかも、その理由は俺が懸念していた通りの理由だった。






最近、絢の周りで筧の姿をよく目にしていたからだ。





なんの根拠もなく疑う事はしたくなかったが、やはり筧が関わっていた。





嫌われていない事、避けられてる理由は筧であった事。





今はこれで十分だ。





ここ何日かの不安が一気に晴れた。





俺は明るい気分になると笑顔を隠す事もできないまま、その場を立ち去った。