自分でも変だと思うのだが、あの教室での一件から、絢に認識してもらえた気がして舞い上がっていた。





もちろん担任なのだから、俺の事を知っているのはわかっているが、あの日までは、絢の中で『どうでもいい存在』なのだろうと感じていた。






それからは積極的に話しかけた。






やっと絢の眼中に入れた。






もっと彼女の事が知りたい。






そんな欲求がフツフツと湧き上がる。






こんな事はいつぶりだろうか?






他人にこんなにも興味が沸くなんて。






俺は思春期の少年のようにドキドキとワクワクが入り混じった気持ちで、絢が職員室の前を通るのを待った。






自転車置き場に行く為にここを絶対通るのだ。







まだかまだかと待っていると、校舎の角を曲がった絢が見えた。






興奮と嬉しさが混じり鼓動が踊る。







こちらに気づいた絢は俺の顔をまっすぐ見つめ、「さようなら』と一言、言うと通りすぎて行こうとした。






俺の知っている生徒のほとんどは急いでいない限り、なるべく俺と話そうとするのに。






俺は咄嗟に絢を引き止めた。





自分から用事もなく生徒を引き止めたのは初めてだった。





聞きたい事はたくさんある。





絢の事をたくさん知れば、この四六時中乾いたような満たされない感情は落ち着いて、彼女の事を他の生徒同様に見れるようになるんではないかと思っていた。






でも、何を聞いても満たされない。乾きはそのままの状態だ。






校内を走っているテニス部の生徒達がこちらを見て「キャー、先生」と叫んでいる。





俺はここぞとばかりに大きな声で返事をして手を振った。





手を振っただけで、また彼女達は悲鳴をあげる。






こんなに生徒達から人気があるんだぞ。





大抵の生徒は俺と話したくて仕方がないという事実を絢にわかってもらいたかった。






そうしたら、俺の事をもっと知りたくなるんじゃないか?






俺が絢を知りたいように...






同等になれるかもしれない。






そんな事を思っていた俺に絢は





「あの..先生、用事はなんですか?」






と聞いてきた。