後から考えると、少し突拍子のない事を新学期早々言ってしまったと後悔をした。






中には、『何言ってるんだコイツ』と思った生徒もいるだろう。







そう思った瞬間、絢は多分そう思ったに違いないと思い、羞恥心が湧き上がる。







新学期が始まり、絢と話す機会を作る為、班を縦1列にする事にして席の一番前に座っている生徒を班長にした。副班長は前から2番目に座っている生徒だ。






絢の席は一番前だった。




班長になれば、教師に確認を取りに来なくてはならない。






本当に自分でも公私混同甚だしいと思っている。






『でも、このぐらいだったらいいだろう』






教室掃除の当番に絢の班はなったので、掃除が終わると絢と副班長の生徒が俺を確認してもらう為に呼びに来たが..





結局、それだけだった。





もっと話したいんだ。





ただ、どんな子なのか知りたいだけだった。






今年は交通指導の場所も変えられてしまった。





まあ、毎日教室で会えるからいいのだが。





それにしても、俺に全く関心がないようだ。





仮にも俺は担任なんだから、少しは関心を持ってもいいと思うのだが...






まただ。彼女を捉える事ができない。






こんなに近くにいるのに、見る事しかできない。




彼女が友人に見せる屈託のない笑顔を俺にも向けてはくれないだろうか?






そんな中、筧は何も用がないのに、前のように話しかけてきた。





「先生が私の担任になるなんて、なんか運命的ですね」






なんて馬鹿げた事を言ったので、無視をした。






ここ何日かの俺の態度を見て、こんな馬鹿な事は言わなくなったが、何かしら用事や質問をみつけては話しかけてきた。





教師として、これらには無視はできない。






冷たくしても、この子がちょっとやそっとで諦めるタイプではない事はわかっている。





そんな悶々としていたある日。





学年主任にまた呼ばれて行くと、うちのクラスの外掃除の生徒達が、教師が見回りに来ない事をいい事に遊びながら掃除をしていると注意をされた。





お灸を据えなければいけないと、その日は外掃除に付きっきりになっていた。





他の掃除場所の班長は終わると呼びに来たが、教室掃除だけ来なかった。








もう終わっているはずだと思い、教室に行くと絢が一人でいた。










一瞬で胸の鼓動が早まった。










彼女の纏う空気は凛としていて、満月を見ているような気分になる。





周りの時間が静止したような感じさえした。








話しながら、普通を装いながら、絢へと近づいて行った。





やっと彼女に近づける。





あんなに、他の生徒からの好意を疎ましく思っていたのに、こんなにも彼女にそれを持って欲しいと思っている自分に驚く。






今までの、そしてあの日のつかまえたいと思う感情が一気に蘇ってきた。






欲求を満たすべく、俺は彼女の細い両方の手首を片手で捕らえる。





驚いた表情の絢を壁へと押し付けた。







そして、恥ずかしそうに足掻く彼女に、俺は









「俺から逃げられると思ってんの?」








と言った。







もう、逃がさないと心の中で思った。