先生からは逃げられない






後でわかった事だが、1年生の校舎だけ他の学年の校舎よりも教室数が少なく、この年の1年生は例年よりも少し生徒数が多かった為、普通科の1クラスが他の科の校舎を使っていたのだが、彼女はこのクラスの生徒だったようだ。





前に朝、彼女を見かけた時、一瞬だったが普通科のバッジをしていたのを見たので、同じ校舎にいると思い込んでいた。





この校舎と1年生の校舎とは斜め横の位置に建っていて遠いわけでもなかった。




知っていれば、すぐに見つける事ができただろ。





彼女を初めて見かけた時から、もう何ヶ月が過ぎたのだろうか?





交通指導の日が楽しみにさえなってきたが、時々彼女は現れない事があった。






遅刻する事が時々あるようだ。






ある日、もうそろそろおばあちゃんが来る時間だというのに、彼女が現れない。





とうとうおばあちゃんがいつもと同じくゆっくりとした速度で近づいてくるのが見えた。





俺は、道を渡りそのおばあちゃんの元へと近づいた。





「ここの横断歩道を渡るんですよね?お手伝いしましょうか?」





と言うと、おばあちゃんはゆっくりと顔をこちらに向け、くしゃっとした笑顔をするとお礼を言った。







俺の普段の10分の1程のスピードで進んで行く。






これを毎回、彼女は進んでやっているのだ。






彼女ともしかすると親戚の方なのかもしれないと思い、渡りきった時に聞いてみた。





おばあちゃんは、嬉しそうな顔をして「あの子は本当に心の綺麗な子だね」と言ったがどうも彼女自身の事は知らないようだ。





なかなか彼女の情報を掴む事が出来ずに、なんだか砂を掴んでいるような気持ちになっていた。







確実に近くにいるのに、見る事だってできるのに、ただ、どんな子なのか気になっているだけなのに...






もどかしさが俺を彼女の虜にしている事にこの頃はまだ気がついていなかった。






自転車に乗った彼女は本当に速かった。いつも颯爽と現れては、あっという間に消えて行く。






そんなある日、陸上部の顧問をやっている俺は何人かの部員と部活に向かっている所だった。



もうすぐに控えた大会の話をしていた俺の前を一瞬、太陽の光を浴びた彼女が駆け抜けて行った。





その表情は満面の笑みでその後から彼女の友達だろう、疲れた顔で待ってくれと懇願しながら追いかけて行く生徒がいた。






その光景を見ていた俺を部員達が不思議そうに見ている。






「先生?どうしたんですか?」






一人の部員の声で我に返った。




どうやら、俺は話している途中で立ち止まり彼女に見入っていたらしい。






どうにかごまかして、部活に向かったが彼女の走っている情景が、俺の脳裏に焼き付いていた。




俺はこの時、彼女を追いかけて、つかまえたいとさえ思っていたのだ。