学校中に俺の噂が立っている。
よりによって星野先生と俺が結婚すると言う噂だ。
まったく、どこからこんな噂が立ったのか?
「まいったな」
心の声が出ていたらしい。
近くの席の星野先生が貼り付けたような笑顔で俺の顔を覗き込みながら
「先生、どうかされたんですか?」
と聞いてきた。
「星野先生にも申し訳ないです。俺たちの噂」
「あらっ。私は全然かまわないですよ」
その笑顔を引っ剥がしたいと言う衝動に襲われた。
何を考えているのかわからない笑顔は俺を恐怖にも似た気持ちにさせる。
そして、それが苛立ちに変わる。
普段は、サバサバしているのになんで俺の前ではこんな感じになるのだろう。
「今度、ご飯でも一緒にいきませんか?」
考え事をしている時に、星野先生が言ってきた。
「はい?」
思っていたよりも、厳しい言い方だったようだ。
星野先生の笑顔が一瞬消えた。
でも、それは一瞬だった。またあの笑顔を俺に向けると、
「先生とはもっと二人でお話したいなって思ってたんです。結構前に週末二人で街を歩いた時、楽しかったので」
あれは生徒が問題をおかして、仕方がなくではないか。
このご時世男性教師が一人で女生徒の対応を学校外でしてはいけない事になっている。
必ず女性教師も一緒に行くのだ。
俺はこういう女性が苦手だ。
と言うか、恋愛対象は女性だがほとんどの女性が苦手な部類に入る。
女性に対して少しトラウマのようなものがあるのだ。
それにしても星野先生は特に苦手だった。
そんな俺が大学を卒業して地元に戻ってきた時、数ある就職先の中でよりにもよって女子校を選んでしまったのは、他の学校とは段違いに良い待遇だったのだ。
多感な時期の彼女達には、俺は格好の獲物なのだろう。
恋愛対象が多くないので、どうしても俺へ関心が向いてしまうようだ。
就任したての時はそんな彼女達の好奇の目に戸惑う事ばかりだった。
しばらくすると学年主任の先生に呼ばれ、注意を受けた。
俺が何をしたって言うんだ。
憤慨したが、俺の対応の未熟さからなる事なのだから、怒られても仕方がない。
それから、告白してくる生徒にはとことん冷たくした。
気持ちを押し付けてこないでくれ。
はっきり言って迷惑でしかなかった。
