私は本当に一人になったんだな。
ガヤガヤとする喧騒の中、いつもと同じ教室の中で一人でいるとつくづく現実を痛感する。
もう、綾ちゃんは私を笑わせたり、一緒にランチを食べには来ないし、先生は、そんな私を見ても電話をしてはこないだろう。
そんなに悪い事をしたのかな?
そんなにイラつく事した?
最初の1週間は本当に辛かったが、受験の準備で忙しかったし、周りも私と同じで忙しくしていたので、なんだか孤立感が薄らいでいた。
もともとの性格なのか人間の性質なのか、しばらくするとそんな生活にも慣れて行った。
必要な事以外では先生とは話さなかったが、私の目は相変わらず先生を追っていた。
大学の学校推薦枠をもらえ、推薦受験をした。
一般受験組が必死に勉強真っ只中、私の合格通知が家へと届いた。
結果は、見事『合格』。
合格した事への興奮が湧いてきた。
久しぶりに通学時の気分が晴れている。
怪しい人にならないように笑顔になってしまう顔の筋肉を抑えなければならなかった。
朝のホームルーム中は、早く誰かに報告したくてうずうずしていたが、同時に今報告できる友達がいない事で少し気分が落ちた。
でも、先生には報告できる。
ホームルームが終わり、先生はいつものように取り巻きに囲まれながら職員室へと歩いて行った。
取り巻きが自分達の教室に帰る時間を考えて少し待ってから職員室へと向かった。
行くと職員室に先生はいなかった。
隣の席の先生にどこにいるのかを聞くと、会議室にいるという。
告白した時の辛い気持ちが蘇ってきた。
後で報告しようか一瞬迷ったが、職員室の近くにある会議室を見るとドアが開いていたので、覗いてみた。
先生を見つけた瞬間、今の喜びを分かち合いたいと言う衝動に駆られた。
この人なら本心で喜んでくれるに違いない。
先生の笑顔が頭に浮かんだ。
開いてるドアから会議室の中に入り、
「先生!私、大学合格しました」
と、とびっきりの笑顔で言うと
先生はこちらを向き、
「おおおお!本当か!?」
と本当に嬉しそうな笑顔で喜んでくれた。
私が作ってしまった二人の間の壁が崩れた様に感じ、嬉しくて話し続けた。
先生はそんな私の言葉を嬉しそうに聞いていたが、少しするとその表情は切なげな、何か愛おしむような表情になり、私の元に近づいてきた。
そして、話し続けている私を抱きしめた。
一瞬何が起きたのかわからなかったが、私は確かに先生の腕の中にいる。
心の中も頭の中も混乱した私は、先生の腕から離れ、
「失礼しました」
と言うと、教室に向かって走って行った。
