進路相談の面談の日から、何かが吹っ切れたような気持ちになれた。






それは先生のおかげだ。






状況は変わっていないし、私が少しでも元気にしていると陰での悪口の量が増えているのを感じる。





大丈夫な私を演じきれていない日には決まって先生から電話があった。






誰かが自分の事を気にかけてくれている、しかもそれが先生だと思うことで、なんだか気持ちが楽になった。






自分が信用できる人は先生しかいない。






そんな状況のせいなのか、日に日に先生への気持ちが募っていった。






いつでも先生を目で追ってしまう。






先生を見ていられれば幸せだと感じた。





辛いはずの今の生活が楽しく感じ、私に対する悪意などなんともない気がした。







私の中で確実に先生の存在が大きくなっていっている。







私は、先生が好きなんだ。








もうごまかせない程、気持ちははっきりしたものになった。







仲よさそうに女の子と話す先生をみると嫉妬もしたが、前回の電話で





「そういえば、俺のスマホの番号知ってるのは絢だけだから、絶対他の誰にも言うなよ」




と言われ、自分は特別なんだと思うと嫉妬心もスッと消えていた。







そんなある週末、母に頼まれて買い物に出た。





私の家は都市部にあるので、ちょっと出かける時でも洋服に気をかけた。





しばらく歩いていると「絢!」と大きな声で呼ばれ、振り向くと、そこには松井先生が手をブンブン振りながらこちらに小走りで近づいてきていた。






「ちょっと先生、声大き過ぎで恥ずかしいです」





と言う私に向かって、ニコニコしながら「すまん」と言った。






「私服の絢は初めてだな。おお!かわいい、かわいい」





とからかうように松井先生は言う。





不機嫌な顔をした私を見て、松井先生はアハハと笑った。






そんな笑っていた松井先生の表情が一瞬のうちに変わったのに気づいた。




どうしたのかと思い、松井先生の目線を追うと、そこには仲よさそうに話しながらこちらの方に向かって歩いてくる先生と星野先生が見える。





向こうはまだ私達には気づいていないようだ。





胸が苦しくなって逃げようとした瞬間、松井先生が大きな声で二人を呼んだ。





逃げる前に見られては、もう逃げ出せない。






恐る恐る二人を見る。



星野先生は笑顔でこちらに手を振りながら歩いてくる。




その一歩後ろを先生が私の顔を見ながら真っ直ぐ近づいてきた。







松井先生と星野先生の興奮した声での会話は私の耳には入らなかった。





すると、先生は前にも聞いた事のあるいつもより低い声で、





「絢、ここで何をしてるんだ?」





と言った。




響としては、優しげな言い方だったが、私は少し怒られているような気持ちになった。






先生の顔を直視するのがなんでこんなに難しいのだろう?




「母に買い物を頼まれたので買い出しに」





思っていたよりも小さい声が口から出た。





「お母さんからの頼まれごとをそんな格好で松井先生としているのか?」





この時、先生が勘違いしている事に気がついた。





「いえ!松井先生とは、偶然今会ったばかりで!」






今度は想像以上に大きい声が出た。



先生の顔を直視する。



我に帰ると、私の大きな声のせいで松井先生と星野先生は私を見ていた。





星野先生の




「なんか、必死でかわいいわね」




と言う言葉に顔が赤くなるのがわかった。




この場にいたくないと思い、早口で「もう行かないといけないので、先生方失礼します」と言うと先生達が来た方向へと早足で歩いて行った。






私の背後から、星野先生のクスクスと笑う声と松井先生の私の名前を呼ぶ声が聞こえたが、自分の1メートル先を見ながら黙々と歩いて行く事しかできなかった。