修学旅行が近づいたある日、絢ちゃんは結膜炎になって早退した。
その後も学校には来なかった。
電話で話した時、修学旅行にはなんとか行けそうだと嬉しそうに教えてくれたが、みんなと一緒にお風呂に入る事は禁止されたと悲しそうだった。
まさか、先生の個人部屋のお風呂を使うように言われるとは。
それに、先生が酔っ払いから絢ちゃんを助けたらしい。
その日以来、先生と絢ちゃんのいろんな噂が立ち始めた。
誰かは、先生の部屋で絢ちゃんが先生と二人きりだったし、
その子が先生の部屋に行くと出て来た先生は洋服を着たばかりのようだった。
と言った。
確かに、あの日以来絢ちゃんの先生を見る目が変わったように感じる。
先生と噂されるのは、私だったのに...
それに、職員室の前で絢ちゃんを噂や嫉妬から守ろうとする先生の姿を見かけた。
あんなに必死そうに...
絢ちゃんへの嫉妬心が更に大きくなっていくのを感じていた。
そんなある日、松井先生と言う若い男の先生が産休の先生の代わりに来た。
松井先生は、学校に来て早々人気があった。
大学を出たばかりで、背が高くそこそこかっこよかったからここでは当たり前だろう。
『先生ほどではないけどね』
絢ちゃんと移動教室のために歩いていると
松井先生は、「Aliseだ」と絢ちゃんに向かって言った。
Aliseって...あの美人で有名な女優さんの事だよね。
何この人。
学校で生徒にナンパしようとしてるの?
それにしても人気のある先生から、こんな事言われるなんて、
どこまでも気に食わない。
困った様子の綾ちゃんが余計腹ただしい。
しばらく、松井先生の絢ちゃんに対する態度を見ていると、
松井先生は絢ちゃんに気があるんだと思うようになった。
他の生徒にも馴れ馴れしかったが、絢ちゃんには特に嬉しそうに接していた。
『いっそ、絢ちゃんと松井先生くっついちゃえばいいのに』
松井先生は初めて会った日以来、絢ちゃんをAliseと呼んでいて、大きな声で呼ぶたびに注目を集めていた。
相変わらず嫌がって、松井先生を避けだした絢ちゃんの事を羨ましがる子も出だした。
そんな状況も気に入らない。
松井先生に他の有名人の名前で呼ばせようと打診したら、
松井先生は、絢ちゃんの名前を知れた事を喜んでいた。
なんなんだ?
みんなみんな。
私の事は見えないのか。
イライライライラ
その日以来、松井先生は絢ちゃんを見つけると嬉しそうに話しかけ、
一層馴れ馴れしくしていった。
このまま絢ちゃんとどうにかなればいいのにと思っていたら、
廊下で松井先生が絢ちゃんの手を握っていた。
それを見つけた先生は、他の生徒と話しをしていたのに、怖い顔をしてそちらの方へと近づいて行った。
松井先生は、絢ちゃんから手を離し、不機嫌そうな顔で去って行った。
先生は教室に戻って来たが、やはり不機嫌そうだったので誰も話しかけられなかった。
先生は松井先生に嫉妬したの?
先生、今だに絢ちゃんを気にしてるの?
松井先生は、その後も絢ちゃんを見つけると話しかけ、それを見つけた先生は、静かに不機嫌になっていた。
先生が不機嫌になっているのは、私だからわかるだけで、他の生徒には気付かれてなかっただろう。
私は、先生をずっとずっと見てきたんだから...
先生が不機嫌になるたびに私のイライラも募って行った。
そして、私は、絢ちゃんを陥れて行った。
